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福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)221号 判決

第二六九号事件控訴人 第二二一号事件被控訴人(原告) 中島九州男 外一名

第二二一号事件控訴人 第二六九号事件被控訴人(被告) あけぼのタクシー有限会社

主文

一  一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  一審原告らが一審被告に対し、雇傭契約上の権利を有することを確認する。

2  一審被告は、一審原告中島九州男に対して一九八万〇七三六円、一審原告横田重信に対して一九七万〇七七〇円を支払え。

3  一審原告らのその余の請求を棄却する。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じこれを六分し、その一を一審原告らの、その余を一審被告の負担とする。

四  この判決の金員支払い部分は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一審原告ら

一  原判決を次のとおり変更する。

一審原告らが一審被告に対し雇傭契約上の権利を有することを確認する。

一審被告は一審原告中島九州男に対して二九六万六五六八円を、同横田重信に対して二九五万一七二〇円を支払え。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

四  金員支払部分につき仮執行の宣言

一審被告

一  原判決中一審被告の敗訴部分を取消す。

二  一審原告らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。

第二当事者の主張

次に付加するものの外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表六行目の「一〇乗務と四時間」を「一〇乗務」と改める。

二  同七枚目表八、九行目の「原告中島の昭和五一年六月の乗務が一〇乗務と四時間で」を削る。

三  同一五枚目表四行目の次に、「なお、一審被告(以下会社ともいう。)は営業車の燃料補給については、経費節減のため、予め福岡市南区玉川の増田LPGスタンド及び同市中央区長浜の伊藤忠LPGスタンドと他店より安い価格で継続取引契約を締結し、従業員には右二店で燃料の補給を受けるよう指示していたにもかかわらず、一審原告らは右指示にしたがわず、割高であることを知りながら他店で燃料の補給を受けることが多く、また、営業車の営業区域は特定地区に限定されるものではなく、そうでなければ充分の運収を挙げることはできないことは明らかであるにも拘らず、一審原告らは一審被告の再三の注意にも拘らず、営業所に近い福岡市名島、香椎地区が自分らの担当運行地域であると勝手に称し、右地区以外で客を降した場合も、無理に空車で右自称運行担当地域に帰るという変則的営業をして、故意に運収の上げなかつたものである。これらは故意に会社に損害を与え、雇用契約上の信頼関係を破壊する行為であつた。したがつて、右のような不良従業員に対する本件解雇が不当労働行為に該当しないことは明らかである。」を加える。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も本件懲戒解雇処分は無効であつて、一審原告らの雇用契約上の地位確認請求は正当であり、また一審原告らの右懲戒解雇の日から職場復帰の前日までの一時金を除く賃金請求は原判決の限度において正当であると認定判断するが、その理由は次に付加、訂正する外は、原判決理由説示の当該部分(原判決一六枚目裏三行目から三六枚目表七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二二枚目裏一二行目から末行にかけての「乙第一一号証」の次に「成立に争いのない乙第三九号証の一ないし七、当審証人三浦新作の証言から成立の認められる乙第四〇号証の一ないし六」を加え、同二三枚目表一行目の「証人北崎定彦の証言(第一回)」を「原審証人北崎定彦(第一回)」と改め、その次に「当審証人三浦新作の各証言」を加える。

2  同二三枚目裏七行目の次行に次のとおり加える、「成立に争いのない乙第四号証、原審証人三島隆二郎、同宗像拓、同北崎定彦(第一回)、当審証人三浦新作、同北崎定彦の証言を総合すれば、右スローガン書込闘争に際し、同年六月中旬ごろ、非組合員である永島昭一がその乗務する車両に書込まれたスローガンを自己の判断で消したことで一審原告中島との間にトラブルが発生したこと、同年六月八日ごろ、一審原告らが非組合員である宗像拓の乗務する車両に同人の意思に反してスローガンを書き込んだので、同人が組合に抗議を申し込んだことが認められる。

3  同二四枚目表一二行目の「本件解雇以前会社には、」の次に「前記のようなトラブルを発生させた一審原告らの責任を含め、」を加える。

4  原判決二四枚目裏三、四行目の「証人北崎定彦」を「原審証人北崎定彦」と改め、同四行目の「同三島隆二郎」の次に「当審証人三浦新作、同松藤睦、同北崎定彦」を加える。

5  同二六枚目表七行目から二六枚目裏五行目までを次のとおり改める。

「前掲甲第一九号証によれば、一審原告らの右点呼の拒否は、懲戒解雇事由である就業規則七三条一三号「職務上の指示命令に不当に反抗して事業上の秩序を紊したとき」に該当する。

そして、前掲乙第九号証、乙第二二号証成立に争いのない甲第二〇号証、原審証人北崎定彦(第一回)、当審証人松藤睦の各証言に原審における一審原告らの各本人尋問の結果によれば、一審原告らが右点呼を拒否したのは、後記4認定のような刑事事件の発生により、松藤と一審原告ら組合員との間に感情的対立があつたことが原因であつたこと、会社は右刑事事件に関連して松藤を出勤停止処分に付した外、組合との間に「当分の間同人を組合員との接触のない職務につかせること」等を内容とする協定を結んで実行したこと、右刑事事件は昭和四五年五月一日のことであつたのに、一審原告らの点呼拓否は昭和五一年二月から八月まで続いたことが認められる。

右のいきさつからみれば、一審原告らが松藤の点呼を拒否した心情は理解できないわけではないが、事件後会社も組合に対して相当の配慮をしていることではあるし、一審原告らの右認定のような長期にわたる点呼拒否はやや執拗に過ぎるとみられないことはない。」

6  同二七枚目表四行目の「認め難い。」の次に「右の点に関する当審証人北崎定彦の証言も直ちに採用し難い。」を加える。

7  同三一枚目表三行目の「甲第四六号証の一」の次に「及び原審証人坂本常雄の証言」を、同五、六行目の「結成されたこと」の次に「右結成については会社の取締役北崎定彦が運転手に対して入会を勧誘したこともあること、右結成大会後宴会が催されたが、その費用は会社が負担したこと、」を加える。

8  同三二枚目表一一行目の「からすると」を「及び成立に争いのない甲第五二号証によると」と改め、同一二行目の「何らかの」を削り、同末行の「推認」を「認定」と改める。

9  同三二枚目表末行の「さらに、」から三二枚目裏一行目までを、「他方、会社主張の解雇事由中、一審原告らの松藤睦の点呼拒否行為は就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するものであつて、極めて些細な事案とまでいうことのできないところであり、また、営業車両への闘争スローガン書込み闘争は正当な争議行為の範囲を逸脱するものであるが、右闘争につき組合幹部としての一審原告らの責任を追及できるかどうかはともかく、右闘争からすでに一年以上経過していることから、会社としては右闘争につき組合幹部を懲戒する意思はなかつたものと認められ、その他の本件解雇事由として会社の掲げる事由は違法視することのできない前認定のような多岐にわたるものも含まれ、その中には六年も前の刑事事件の法廷における一審原告らの証言にまで及んでいること等の事情を総合して判断すると、」と改める。

10  同三二枚目裏四行目の「認めるのが相当である。」の次に「成立に争いのない乙第四一号証の一ないし四七、乙第四二号証の一ないし八に当審証人三浦新作、同松藤睦の証言、当審における一審原告らの本人尋問の結果を総合すれば、会社は経費節減策として、その主張の二店舗と低価格で燃料の継続取引契約を締結し、従業員には営業車の燃料補給は原則として右店舗で受けるよう指示していたのに、一審原告らが右店舗以外で割高な燃料の補給を受けることが多かつたことは認められるが、しかし成立に争いのない甲第五一号証の一、二を併せると、会社は一審原告らの解雇後も従業員に対して数回前記指示を順守するよう呼びかけていることが認められ、このことからすれば前記指示は従業員に充分徹底していなかつたものと推認するのが相当であるので、一審原告らが前記指示に従わなかつた事情も右認定を妨げるものではない。なお一審被告は一審原告らが運収の上るのを抑えるため勝手に運行担当区域を定めて変則運行をしていた旨主張するけれども、右事実を認めるに足りる適確な証拠がない。

11  同三四枚目表九行目の「なお、」から三四枚目裏二行目までを削る。

12  同三四枚目裏八行目の「原告中島の六月分の賃金が一〇乗務と四時間であり、」を削る。

13  同三五枚目表二行目の「右出勤停止」から同三行目の「一乗務一二時間」までを、「同年六月一〇乗務四時間乗務したが、右出勤停止処分を受けなければ、更に一乗務一二時間合計一二乗務」と改める。

二  次に一審原告らの一時金請求について検討する。

前記のように解雇された労働者が、解雇期間中他で収入を得た場合、使用者から支払いを受ける賃金から控除することが許されるのは労働基準法一二条所定の平均賃金の計算の基礎になる賃金のみであり、その計算の基礎にならない本件のような一時金(同条四項所定の賃金)は控除の対象にならないものと解するのが相当である。

1  一審原告らは、一次的に昭和五一年冬期から昭和五二年冬期までの賃金協定により計算して支給される筈であつた一時金が一審原告両名とも合計五六万二五〇〇円であると主張する。

成立に争いのない甲第四一号証の二及び三によれば、昭和五一年度と昭和五二年度の賃金協定の内容から月間運収三〇万円の従業員に対する一時金の支給額は明らかであつて、これによつて計算した一時金の総額は一審原告らの主張のとおりではあるが、しかしながら弁論の全趣旨から成立の認められる乙第一五号証によれば、一審原告らが仮に乗務していたとしても、その月間運収は三〇万円に達しなかつたものと推認されるところ、右のような従業員に対する一時金の支給額がいくらになるかは前記賃金協定のみによつては明らかではなく、他に一審原告らがその主張の額の一時金の支給を得られたものと認めるに足りる証拠がないから、右一時的請求は理由がない。

2  次に予備的請求について検討するに、一審原告らが解雇前の昭和五〇年冬期及び昭和五一年夏期にそれぞれその主張の一時金の支給を受けたことは当事者間に争いがなく、反証のない限り、本件解雇がなければ、一審原告らは昭和五一年の冬期及び昭和五二年の夏期、冬期には解雇前を下廻らない額の一時金の支給を得られたものと推認するのが相当である。

また昭和五三年夏期一時金として一審原告らがその主張の一時金の支給を受けたことは当事者に争いがない。そして弁論の全趣旨によれば夏期一時金の計算期間は前年一二月一日から当年五月三一日まであること、一審原告らが昭和五三年三月一四日から復職して乗務を始めたことが認められるから、一審原告らが昭和五二年一二月一日から乗務していれば、昭和五三年夏期一時金は右昭和五二年一二月一日から昭和五三年三月一三日までの期間に応じた額が加算して支給されたものと推認するのが相当であるから、日割計算すると、一審原告中島は更に六万三九七七円、一審原告横田は更に七万一三六九円の支給を得られた筈である。

以上のとおりであつて、本件解雇後復職まで支給を得られたであろう一時金の合計額は、一審原告中島につき五二万二六九二円、一審原告横田につき五一万八六六五円になる。

三  以上のとおり一審原告らの本訴請求は、同人らが被控訴人との雇傭契約上の地位にあることの確認及び未払賃金及び一時金として一審原告中島において一九八万〇七三六円、一審原告横田において一九七万〇七七〇円の支払いを求める限度において正当として認容すべきところ、一部これと異る原判決は変更すべく、民訴法九六条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉 諸江田鶴雄 日高千之)

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